私たちは選民思想の持ち主です

偏差値音頭がいつまでも頭の片隅に残っている。おばあちゃんが赤いはちまきを頭に巻いて太鼓を叩いてる。偏差値70!偏差値75!と叫んでいて兄の模試の結果に一喜一憂していた母親の叫び声に疲弊し、部屋にずっとこもっていた頃を思い出した。

幼稚園受験が終わってから、抜け殻のような奇妙な気持ちで日々を過ごしている。合格を知った時、嬉しくて喜ぶか泣くかするのかなと思ったけど、現実味がなく、本当?という気持ちが強かった。本も読めなくなり、文章も書けなくなった。もちろん嬉しいのだけれども、正直中学受験のような地頭で勝負出来るような年齢ではないのでほぼあれは運でしょう。だけど、知らなかったことを沢山知れた。名門校の校舎から出てくる濃紺スーツの親御さん達を眺めて羨ましく思っていた時もあった。聡明そうな子達が着ている重々しい制服が、眩しかった。スーパーキッズの親というよりも、運が良い子供の親、と表現した方がしっくりくる気がする。もちろん発達持ちの子や行動に問題がある子はテストでふるいに落とされるというのはあると思う。でも通うことになった当事者としてはやはり、合格いただけたのはご縁があったから!といった表現は烏滸がましいなと思う。ただただ運が良かった。それだけ。

髪を束ねて濃紺スーツを着て、黒のヒールを履く。受験は親のエゴか?問題はもうお腹いっぱい。治安悪い公立の民度を知ってからそういう発言してほしいけど、シンプルに想像力ないんだろうな。同級生の喧嘩を止めただけで乱暴な男子に殴られて顔面血まみれになったり、上の代は少年院行きもいたし下の代は◯殺した子もいた。

そういえば小学校低学年の頃に習い事をしていたら、近所の不良が乱入してきた事件があったらしい。私は全く記憶にないけど、習い事に来ていた高校生の男の子が暴れる不良を怪我しながらも止めたらしい。どうしてそんなことをしたか聞いてみたら「習い事に通えるような環境が羨ましかった」と言っていたそうだ。彼は「もう2度とこういうことはしないと約束してくれ。約束してくれたら警察には言わない」と言ったそう。その高校生の男の子の家もお父さんがDVで問題あったりしたらしく、高校卒業後、親は離婚し、彼は自衛隊に入ったらしい。自慢の子供だね。本当にたまにこのことを私は思い出す。すぐに忘れるから書いて記憶を残しておきたい。今と真逆の環境で私は育った。

お教室も通わず迎えた受験の行動観察のテスト。詳しく書くと身バレする内容だから……まあ幼稚園の名門校なんて青◯やら慶◯やら色々あると思うし。とにかくテストは、親は口出しをせずに見守るしかなかった。過干渉な親が1番アウトらしい。

子供がブロックを黙々と集中して組み立てている時に、兄が高校の頃言っていたことを思い出した。

「もっと自由が欲しかった。」

高校に入ったらバイトも部活もしばらくして辞めさせられ、予備校漬けだった。

母親の気持ちは、今なら少し分かる。偏差値70の名門校に入れたのだから、さらに上を目指したいのだろう。でもいつも明るくて面白い兄がいなくなって、結局医学部も落ち、彼の青春はみんなの期待を強制的に背負わされ、我慢ばかりだった。私は同じように育てたいのか?それはない。自分が「出来ない側」の人間だからこそよく分かる。子供には青春を送ってもらいたいし、自由にのびのび生きてほしい。

「僕もっとブロックをしたい!」

テスト中に子供が大きな声を出した。いや、もうすぐ片付けの時間だし。思うことは色々ある。もっと協調性を持って他の友達と遊んでほしい。端にいる子たちはグループになって遊んでいる。周りにも目を向けて。でも、集中力があるっていうのは強みであって、私にはない羨ましい長所だと思った。まあ私も夫も内向的だし、無理矢理輪に入れさせるのが酷なことくらい分かる。自分だってされたくない。

「あなたが好きなようにしたらいいんじゃない。」

突き放すようにも見られるし、やや奔放なようにも見られると思う。でも、私は子供に自由に生きてほしいし好きなように生きてほしい。この気持ちだけは忘れたくないと思った。

「テスト終了です!番号順にお並び下さい!」

この言葉で、テスト終了に気づいた。子供は楽しかった!と言っていたのでそのことが凄く嬉しかった。

面接も終わり、家に帰宅した。帰ったらお茶を2杯がぶ飲みして、喉が乾いていたんだな、と気づいた。朝、トイレが近くなるのが嫌だから飲み物は控え目にしていた。それもあるけど、緊張していたから喉が乾いたんだな、と。

「自分の子が名門校に通うって、嬉しいわよね。私はあの頃が1番幸せだった。」

母親だった。自分は子供が幼稚園に合格し、どう喜んでいいか分からずにいたけれども、自分の親は誰よりも喜んでいた。

選民思想の持ち主だと思う。私も親も、登場人物全員。でも、誰しも心のどこかに選民思想が多かれ少なかれあるのだと思う。治安悪い実家からお金持ちと結婚して、治安の良い場所に家を持つという上昇婚。中身がない人間が、トンビが鷹を産む、のことわざの信憑性を確かめるための挑戦でもあったのだろうか。

back numberの青い春を聴いて、桜が咲く季節を待つかー!来月の入園式が今から楽しみで仕方がない。

https://www.nikkatsu.com/movie/26949.html

映画の青い春を見て、エモい気持ちに浸りたい。