永遠の夏休み

27歳の夏に、私は既婚者となった。

夏が結婚記念日なんて、私には似合わない。

夏は冷房が効いた部屋で、いつも引きこもっていた。

花火大会もお祭りも、27年間男とデートで行ったことはなかった。それだけ私はモテなかったのだ。年収300万レベルの男に切り捨てられ続けた私の結婚相手の年収は2000万を超える。俗に言うハイスペ婚なんだけど、最後の男が出来る男なら、今まで否定され続けた意味はある。否定してくれてありがとう。お前はハリーウィンストンのダイヤの婚約指輪を借金するなりしないと買えないから、どうせチープなブランドの婚約指輪を買うまでの甲斐性しかないのだろうけど。それが愛とか自分に言い聞かせながら、数年後には安風俗にハマって給料使い果たして嫁と金の問題で喧嘩するんだろうけど。そんなこと、こっちは知らない。

夏の暑い日に、冷房を24度にしてだらだらと二度寝を挟みながら、汚いラブホでセックスしていたことを思い出す。10代後半から20代前半の頃?何度ヤりたがるんだこいつはと思いながら、演技をしていた日々をふと思い出す。ラブホテルなんてもう1年近く行ってない。池袋と新宿の安いラブホならだいたい知ってるけど、もう取り壊された所すらあるはずだ。

おめでとうございますと言う役所の人を見ながら、何に対して言っているのかと一瞬悩んだけれども、結婚がめでたいことだからかと納得した。納得するまで、ほんの少し時間がかかった。現実味がない。苗字が変わる実感がない。もちろん不幸ではない。この感覚をなんと言えば良いのだろう。

セフレが死んだその一年後に私は結婚した。

薄情だろうか。それとも無神経なのだろうか。そんなもんだよね、と言われるのだろうか。もしも生きていたなら、彼は一体何と言うだろう。

良かったねー、なんてヘラヘラ言っていただろうか。悲しみはしないだろう。それは私たちが付き合っていたわけではないから。

私と旦那は、スピード婚というわけでもない。燃え上がった恋でもない。出来ちゃった婚でもない。

ただただこれからも楽な日が続いていくということだけは確かだ。

甲斐性ある人と暮らすのはストレスがない。だから心から感謝している。こんな生活を送らせてくれる人間は上位10パーセントくらいもいないと思う。

受験も上手くいかなかった。就職も上手くいかなかった。何一つ上手くいったという成功体験がないまま、ダメな大人になった。強いて言うならオヤジビジネスでご銭稼ぎが平均より少し多く出来たくらいだろう。

人生で上手くいったのは婚活だけだ。

当初の私が結婚相手に望んだのは、学歴だけだった。学歴良くても仕事出来なきゃ意味ないじゃーん、そんなことを言う人をよく見る。でも。その学歴を手に入れるのが大変だし、その学歴を手に入れる過程がもう凄いし、自分に一番足りないものだから、どうしても欲しかった。バカとバカの子供はバカだけど、バカと頭良い人間の子供はバカの可能性も半分あるけど頭良い可能性も半分ある。

その可能性に賭けて、避妊に気を付け続けた独身時代を経て、子作りのためでもある中出しするようになるのだろう。

2000万以上稼ぐ男性は0.3パーセント。

30代40代の男性で20代女性と結婚出来る可能性も数パーセント。

ギブアンドテイクというか、需要と供給だと思う。側から見たら男は金、女は若さ。

金だって、外資系だから上がり下がりがきっとあるだろう。若さだって、数年もしたら衰える。

それでも今が良いなら、それも愛だろう。

それを愛と思い込めるなら、それが幸せといえるなら。

結婚に容姿は関係ないな、と思う。あと数打ちゃ当たる、ってのも確かだ。何度理想の相手と出会うためにパーティに行っただろう。結婚した私はもうパーティには行かない。

108本の赤い薔薇と、ハリーウィンストンのダイヤの婚約指輪に、リッツ・カールトンで挙げる結婚式。これは上位何パーセントだろう……。まだ地に足がついている感覚がない。

なるべくしてなったハイスペ婚した成功体験を胸に、私は27歳滑り込みで12月に花嫁になる。