晴れすぎた空

結婚式、新婚旅行を終えた次の月には妊娠した。ハリーウィンストンの婚約指輪に、リッツカールトンで挙げる結婚式、モルディブ とドバイで過ごす新婚旅行。もうこれ以上に良いことはこの先ないだろうな、そう思えるくらい全てが完璧で満たされていた。結婚半年目での妊娠だった。

今の私は安定期を迎え、つわりもほぼなく、仕事もしていないので本を読んだりテレビを見たりぐたぐたしているだけ。でも妊娠しているから、を言い訳に出来るからストレスがない。あと5ヶ月で出産かー、まああっという間だよね、くらいにしか思っていない。体重もまだ増えていない。妊娠後期には太るんだろうけど、激太りは今のところなさそうだ。27歳で籍を入れ、式を挙げ、28歳で妊娠、出産。早くもないけど遅くもない。コロナの被害さえ受けなければ完璧な人生設計だ。30歳で二人目を産んで、子供は二人。教育地区でもある文京区にマンションを購入し、休日は夫と子供とまったり過ごす。そんな想像しているだけでも、楽しい。

夫と知り合って10ヶ月未満で籍を入れたけど、何の不満も今のところない。こんな人生を自分が送れるとは思ってもいなかった。子供もいなくても良いとそれまでは思っていた。共働きで、家事もほとんどやらせるような人と結婚していたら、子供は作らなかったと思う。専業主婦させてくれて、家事も手伝ってくれて、何のストレスもなかったから子供を作ろう、という余裕が出来たのだと思う。何様だよって感じだろうけど。それでも妊娠した時は「え、もう?」と思った。排卵チェッカーを使って妊娠率が1番高い日にタイミングを取ったのだからそりゃそうだよ、って話だけど、妊活は半年くらいかかるものかなと思っていたから。妊婦検診もなんともなく、無痛分娩を予約した。

妻と夫、というよりは、彼はなんでもしてくれる万能なお手伝いさんのようであって、お金持ちで優しいおばあさんに保護された野良猫の気持ちだ。私は人と共存することがそれまで苦手で、一人がこの上なく幸せだと思って一人暮らししていた。30代半ばまで水商売をやって、中古の1LDKマンションを購入して猫と暮らそうと思っていた。

とはいえ、今の日本は専業主婦は肩身が狭い。当たり前のように結婚しても仕事は?と聞かれる。いや、主婦だけど、みたいな。なーにが仕事じゃい。好きな人だけすればいいやろ。夫におんぶ抱っこで寄生しているよ☆〜(ゝ。∂)フルタイムで働いて、家事をして、子供を育てるなんて、自由を捨てて奴隷になるほど献身的な人間性ではない。いや、全てをこなしている女性は凄いけど。好きでそれをやっている人は果たして何割いる?仕事が好きだったりするバリキャリ女性もいるけどね。甲斐性なしと結婚するくらいなら独身貴族を謳歌していたと思う。見返りなく、何かしてあげようとは思わないし。愛なんて3ヶ月もしたら覚めるし。高学歴で年収2000万以上で優しい彼だから愛は続いている。そんなものでしょう。

この秋出産する子供が彼に似てくれたら嬉しい。似てなくても愛せますように。2匹のネコを引き取って暮らしてから、幸せな人生が訪れた。無宗教な私だけど、ネコチャンだけは信じている。幸福の鍵しっぽの猫だったから、幸せになれたのだろう。中学受験で第一志望落ちた時、絶望でいっぱいだった。隣人を自分のように愛しなさい、の意味が分からなかった。クリスチャンではないけど、そのような校風に私はずっと憧れていた。願いは叶わなかったけど、だけどいい。

滑り止めの、校則の厳しい中高一貫の女子校から、行きたかった変わった校風(普通じゃないが普通です、みたいな校風で、就職率は高くないけど好きなことは出来たと思う)の大学に進み、中小企業の事務員やったり水商売やったりしながらも27で結婚して28で出産予定で、人生はなんとでも軌道修正出来た、と思う。このまま私は普通の主婦として生きていくのだろう。昔はそんなつまらない人生は嫌だと思っていた。でも今の私は、そんな人生に満足出来る、普通の主婦として生活している。